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生活困窮者急増でベーシックインカム導入か。社会保障のイノベーション。

いまベーシックインカムが議論されている。

世間で良く言われることだが、日本人は公的保障によって実に手厚く守られている。以下の表をご覧いただきたい。これは週刊 東洋経済(2018.11.24号)で掲載された公的保障と民間保険の表なのだが、公的保障の充実度合いがわかっていただけるだろうか。ヒト系の保障は特に充実している。

公的保険と民間保険

またこれ以外にも、高額療養費制度(1か月の医療費が一定額以下になる制度。正確には医療費が高額になった場合に、一部を払い戻してくれる)や、生活が困窮した世帯に対しては生活保護という制度もある。詳しくはこちらの方のブログをご参照いただければと思うが、こちらも手続きこそ煩雑ではあるが、実はかなりきめ細かなサポートになっている。

現在議論されているベーシックインカム論の中には、これらの公的保障を無くす一方で、毎月一定額を給付することによって代替しようというものがあるようだ。少子高齢化によりもはや現在の社会保障が維持できないのは明白なので、ベーシックインカムという新しい形の社会保障制度に切り替えるべきだというのが、その論拠の一つのようだ。

この投稿はベーシックインカムの是非やその社会的影響を議論するものではないが、思考実験として、仮に公的保障が無くなりベーシックインカムだけの世界になったら何が起きそうなのか、民間保険との関係性の中で近未来をシミュレーションしてみようと思う。

このケースを考えるには、やはり日本の「10年先」をいくアメリカの事例を見ると良いだろう。
アメリカには、連邦政府や州政府による保険制度はない。そのため、中間層以上であれば民間の医療保険に加入して高度医療のための備えをするのだが、アメリカ国民の6人に1人ともいわれる貧困層は、保険料を負担できずに無保険状態となっている。

一方、アメリカではフードスタンプ受給者がおよそ5,000万人にのぼると言われている。彼らは、病気に罹患したとき、気楽に医療を受けることはできない。医療費を支払うだけの金銭的ゆとりがない。まさに「大病したら最後」なのである。

そこで2010年に創設されたのが、貧困層ふくめた国民の保険加入を義務づける公的保険制度、通称「オバマケア」である。
オバマケアにより、個人医療保険のために補助金が支払われることとなった。そしてそのオバマケアに基づく医療保険を提供するInsurTech ユニコーン企業がOSCAR Healthである。
OSCARでは、保険料さえ支払っておけば、医療補償のみならずオンライン医療相談や処方箋管理、治療記録管理などがスマホでかんたんに出来るため、今まで医療保険に加入していなかった層が一気にOSCARに加入することとなった。2021年3月にはIPOもしている。

世界では、事実上、InsurTechが公的保障の代替を果たす進化経路があるのだ。

中国のケースになるが、相互宝のケースもある。相互扶助のグループをつくっておき、アクシデントあればその人に他のメンバーが少額ずつ拠出する保険料後払いのスキームだ。相互宝では1億人を超える加入者がいるので、例えば一人1円でも1億円以上集まるというのだからスケールが違う。

これは、高齢者向けのがん保障など、中国内陸部の保険に入りたくても入れない貧困層中心に大流行し、社会インフラ化した。

また、貧困層向けということでは、マイクロファイナンスというアプローチもある。代表的なスタートアップが五常・アンド・カンパニーである。「全ての人に金融包摂を」という理念には僕らも大いに共感する。

ベーシックインカムが日本で実現するとき、全ては試行錯誤という嵐の中で鍛え抜かれ、生き残ったものだけが承継されていく。

ただ、もしかりに公的保障が無くなったら、日本のInsurTechには何が出来るだろうか。

日本は世界有数の自然災害大国である。予測不能なビッグリスクが山積している(保険会社が忌避する巨大リスクについては「いま、この前例のない世界でゼロを0.1にするには」を参照)。その時、いったい誰が自分と家族を支えるのだろうか。それは自己責任で解決できる問題なのだろうか。

いま我々に突きつけられている問題は根深く、大きい。

ベーシックインカムの議論は我々のセーフティネットを大きく塗り替える可能性がある。引き続き関心を持っていきたい。

ただ、僕らに答えそのものは見えてる。
間違いなく、みんなで支い合える世の中にしたい。