見出し画像

5分で学ぶ、P2P保険の本質と将来性

P2P保険とは、従来の保険のように予め定められた手続きを経るのではなく、加入者それぞれが一つの共通口座(保険プール)にお金を支払うことで成立する「保険」のことだ。

ここでは、およそ5分でP2P保険の構造や歴史について説明しようと思う。

デジタル革命は金融業界のあらゆる分野に波及した。もちろん保険も例外ではない。

そもそも保険は、1600年代にイギリスの船乗りが難破した際の補償を銀行に依頼したことが契機となっている。そのモデルは今も変わらない。
船でも、ノートパソコンやマンションでも、人々は自分の資産を守るために保険会社に保険料を支払っている。

ピア・ツー・ピアモデル

ピア・ツー・ピアモデルは、ProsperやLendingClubが消費者向けに無担保個人ローンを提供するなど、主にソーシャルレンディングの分野で定着している。

P2P(Peer to Peer)保険は、同じような保険ニーズを持つ人々をデジタルで結びつけ、その人々が1つの共通口座に保険料を支払うというものだ。

このモデルは、従来の保険よりもスリムで透明性が高いため、顧客に対してより低い保険料を提供することができる。

従来の保険の仕組み

「従来の保険の仕組み」を極めて単純化すると、「保険料 ― 保険金=利益」となる。

これはつまり、
利益構造という点では、保険会社は加入者に保険金を払わないことで利益が増える構造になっており、
インセンティブという点では、保険金支払いを抑制するインセンティブが働きやすいことになっている。

P2P保険はインセンティブ構造を反転させた

P2P保険の最大の利点は、従来のインセンティブ構造を反転させたことだ。

P2P保険スタートアップは、毎月の保険料の中から一定程度の手数料を徴収する一方で、共通口座にお金が残った場合は直接加入者(または慈善団体)に返済することを保証している。

これは何を意味しているかと言うと、保険金を支払っても支払わなくてもP2P保険会社の利益には何の影響もないということだ。

この決定的な違いこそがP2P保険スタートアップのビジネスモデルに大きな影響を与えている。
なぜなら、保険金支払いが自分たちの利益と無関係であるからこそ、世界のP2P保険スタートアップは保険金を請求して支払いを受けるまでのプロセスを極めてスムーズにできるからである。

「従来の保険の仕組み」では、本質的には、保険金支払いをスムーズにするインセンティブは働かない。
(もちろん、保険会社の社会的意義やDNAとして保険金を支払うことに対する強い矜持があることは強調してもし過ぎることはない)

P2P保険スタートアップの加入者は、オンラインやアプリを使って保険金請求を行うことができ、保険金が数分で支払われることも少なくない。

P2P保険の進化

P2P保険会社は3つの段階を経て進化してきた。

第1段階(ディストリビューション・モデル)
同じようなリスクを抱える人達の小グループが免責金額*を自己負担して保険料を下げる。
*免責金額(=自己負担分)を多くすると、保険料を下げることができる(車両保険の事例)
第2段階(保険会社モデル)
同じ小グループが保険料を共同で支払うことで保険を安く購入する。契約終了月までに未請求のお金があれば、メンバーはその残金を分配してもらう。
第3段階(加入者自治にもとづく相互扶助)
加入者自治が働く相互扶助のグループにより、加入者は一定額を拠出するが、保険金請求がなければ拠出したお金はメンバーに戻される。
一方、保険金額が大きすぎてカバーしきれない場合は再保険で引き受け、数百万円規模の保険金をカバーする。
*第1段階と第2段階のハイブリッドともいうべきモデル

P2P保険のメリット

世界のP2P保険スタートアップは保険料を安くできるとうたっている。
彼らは大企業に比べて経営コストが安いので余分なコストを減らせるから、という当たり前の理由だ。

ニューヨークの賃借人保険を例にとると、Jetty社が月9ドル近い保険料を取るのに対し、Lemonade社は月5ドルからとなっている。これは年間で48ドルの差となる。

スピード
従来の保険は加入に時間がかかる。貴重品の目録を提出して、保険会社がリスクレベルを評価するのを待つ必要があるし、難解な専門用語が書かれた必要書類も多い。

P2P保険スタートアップはデジタルがベースにあるのでプロセスは簡素化されている。オンラインでいくつかの簡単な質問に答えるだけで数分後には見積りが届く。それに支払いもオンライン完結なので、その日のうちに保険を利用することだってできる。

支払い
P2P保険スタートアップに対する指摘の最たるものとして、彼らは高額な保険金支払いを行うだけの資金力がないという指摘がある。
しかし、P2P保険スタートアップは保険会社から「再保険」を購入することで対処している。
Lemonadeの場合、掛金の20%は彼らの収益とし、40%で「再保険」を購入している。これにより上記の指摘に応えることができている。

使いやすさ
前述したとおり、P2P保険スタートアップは、保険金支払いプロセスを簡素化している。損害現場の写真を撮り、基本的な情報を入力してアプリにアップロードするだけで、数日後には保険金が支払われるケースもある。

支払いについてもわずか数分で行われる。このメリットは、特に従来のプロセスを経験したことのある人にとっては、いくら強調してもし過ぎることはないだろう。

P2P保険の障害

まだ若いP2P保険スタートアップ企業は、法律上のさまざまな問題を解決するのに苦労している。
それはP2P保険のフロントランナーLemonadeも同様だ。彼らがビジネス展開しているアメリカの場合、保険は州レベルで大きく規制されているため、他の州への展開には数年かかる可能性がある。

P2P保険の主要プレイヤー

P2P保険モデルは歴史が浅いため、世界でも大手P2P保険会社はまだ数えるほどしかない。アメリカのLemonade、ドイツのFriendsurance、中国の相互宝、イギリスのGuevaraなど。

また、その市場シェアはまだ小さい。
しかし、P2P保険スタートアップには、今後数年で成長していくに違いないと思わせるだけのワクワク感がある。