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「ニッチ保険」はどこまで役立つのか?ペット保険ユニコーンのBought By Many

2021年6月初め、英国のインシュアテックスタートアップ Bought by Many は3億5000万ドルを調達した。評価額は20億ドルに達し、同社はいわゆるユニコーン企業となった。2017年以来同社が調達した資金総額は4億8,300万ドルとなった。

Bought By Manyとは何なのか

ではユニコーンとなったBought By Manyは一体どのようなビジネスをしているのか。

2012年にSteven MendelとGuy Farleyによって英国で設立された同社は、消費者が、ニッチな保険でよりおトクなものを見つけることを支援するサービスとしてスタートした。

彼らを一躍有名にしたのが「パグ保険」だ。

英国ではパグ犬のファンが多い。しかし飼い主はペット保険に入れず困っていた。というのもパグ犬は鼻が低い犬種のため呼吸器系の疾患に罹りやすい。そのため保険会社は、パグ犬を病気に罹患するリスクが高い犬種(=保険金を支払う可能性の高い犬種)と分類して保険加入を断ってきた。

そこで同社は、SNSでパグ犬の飼い主で保険加入したい人を募り、希望者を一定数集めたところで保険会社に交渉し、パグ専用の保険を作ってもらうことに成功した。

これが英国の愛犬家に大ヒット。一躍インシュアテックの成功例として耳目を集めることとなった。

なお、同社では他にも、危険スポーツの愛好家など普通なら保険対象外になってしまう人たちをターゲットにした商品を数多く展開。1つ1つはニッチだが一定数以上の加入希望者を集めることで、保険会社に対して保険商品の新規組成を働きかけてきた。

ペット保険に特化

5年間の試行錯誤を経て、2017年に同社はペット保険に特化することを決め、ミュンヘン再保険の一部であるGreat Lakes Insuranceが引き受ける自社ブランドの保険を発売した。

同社が提供するサービスは完全にデジタル化されており、保険金請求が1年間ない場合は保険料が20%払い戻されたり、複数の動物に保険をかける場合は割引を受けることもできる。

また、FirstVetというサービスでは、オンラインで獣医相談できる無料機能も提供している。このサービスはコロナ禍で重用されるサービスとなった。

3年連続でGWPが倍増

いまや同社は、英国では「Bought By Many」、スウェーデンと米国では「ManyPets」として事業を展開しており、全世界で50万頭以上のペットに幅広い保険商品を提供している。

また、同社は3年連続でGWP(総収入保険料)を倍増させており、すでに2億2,000万ドルを超える数字となっている。

日本のペット保険市場

一方、日本のペット保険市場は、アニコム損保が業界シェアNo1で60%、第二位がアイペット損保で18%程度あるため、業界1位と2位でシェア80%ほどを占める寡占状態にある。

コロナ禍で愛犬家/愛猫家がかなり増えたのは間違いない。ペット保険は少額短期保険が主戦場で毎年2桁の成長率を記録してきたが、直近のGWPは20%を超えるの伸びとなっているようだ。

なお、日本のペット保険加入率については、英国では25%程度なのに対して、日本ではおよそ10%(米国に至っては2%!!)しかないと言われており、まだまだ潜在的な成長可能性があると言われている。

(参考)NewsPicksのこちらの記事が詳しい。

ニッチ保険にみる顧客ニーズ

Bought By Manyは、ニッチ保険を数多く手掛ける中で「パグ保険」という成功事例を創出し、それをペット保険に昇華させることでユニコーンとなった。

保険会社は、大数の法則や逆選択回避の大前提があるため、特定セグメントに特化した保険というものは構造的に創り難い。

一方、顧客側からすると、自分に最適にチューニングされた保険が欲しいのは言うまでもなく、ここに保険商品開発の妙がある。

Bought By Manyによるニッチ保険の事例は、ニッチ保険が、消費者と保険会社との連絡橋になる可能性を私たちに提示してはいないだろうか。